「限界集落温泉」等で有名な鈴木みそさんと「大東京トイボックス」で有名な小沢高広(うめ)さんの対談本です。タイトルはかなり刺激的なものになっていますが、そんな上手い話がないことは皆さんもおわかりだと思うので割愛。本書から学べることは、これからのクリエイターの現実的な生き方です。

 

 

・少ない労力でコンテンツを作れる時代がすぐそこに迫っている


 
小沢 コンピュータにやらせられることは、全部コンピュータにやらせて、人間はもっと人間じゃなきゃできないクリエイティブな作業をしてほしい。

 
鈴木 パソコンがすごく発達した結果、プロ棋士に勝ってしまうくらい将棋が指せるようになったみたいなことですね? それは十分に起こり得ると思います。ただ、現在のハードウェアでそれを実現するのは、まだまだ無理でしょう。まぁ少なくとも、10年とかそれくらいの間は、そこまでの進化はしないと思いますね。しかし、起こるかどうかで言ったら起こりますよね。コンピュータが人間の脳の容量に匹敵する性能を持てば、自分で考えてマンガを描くことは難しくないような気がする。

小沢 それってコンピュータの技術の発達もさることながら、物語自体の構造の研究が進まないと、実現は難しいですよね。

鈴木 なるほど。ハードだけあっても、ソフトウェアが発達しなければ意味がないわけだ。

 

 

出版業の売上は年々減少の一途をたどっています。電子書籍の売上と合わせても増えているとはいえないでしょう。マンガや文章一本だけで食っていくには余程の天才でなければ厳しい時代にすでに突入しています。それでもマンガをやりたいという人は、マンガが本当に好きだからこそやれるものなのですが、それでは収入がおぼつかない。となると、副業などで生活費をまかなう必要性が出てきます。パソコンのテクノロジーがここまで普及するまでは、マンガを描くというだけで1週間のほとんどを費やさなければならず、副業をしたくてもできないということが多分にあったと思います。しかし、フォトショップやイラストレーターなどのツールが普及し、マンガ専用のソフトウェアまで手に入れられるようになった現在は、いくぶん楽に作品を生産することができるようになったようです。

 

 

・小説家はもともと副業だった


 
小沢 だったら、マンガだけで食っていこうと思う意味があるのか、って話ですよね。あくまで副業でやるしかない。小説だけ書いて食ってる小説家がいないのと同じように。

鈴木 すでに、小説の世界ってそうなっちゃってるわけ?

小沢 名前の通った作家さんでも、専業は少ないんじゃないかな。だいたい、エッセイを書いたり、翻訳をやったり、専門学校で講師をやったりとか、大学の先生をしたり。なんらかの副業を持っている方が多いようです。でも、それが悪いわけじゃないし、もともと小説って副業なんですよね。だって夏目漱石だって森鴎外だって、本業の合間に小説を書いていたわけですから、今の小説家はもともとのスタイルに戻っただけともいえる。実は、専業であるほうが特殊な時代だったともいえるわけですね。

鈴木 なるほど。専業の小説家やマンガ家が成り立っていたのも、考えてみれば、出版社、取次、書店という巨大なプラットフォームが前提となっていたわけですからね。それに匹敵する次のプラットフォームが完成しない限りは、専業という発想自体も成立しなくなってしまうわけか。

 

 

これ一本で食べていくというのがかなり難しい世の中になってしまった。一方で、ツールの発展に伴う作品製作の効率化によって、専業というのは現時的ではない選択となってきました。ヒイヒイ言いながら、マンガを描くという旧来のブラック形態は、もう一部の人気作家にしか適用できない、つまり確率的にほぼ0となっていると考えることができるでしょう。では、そんな厳しい状況のなかではどんなワークスタイルが現実的なのかといえば、兼業スタイル。鈴木さんは、次のように言っています。

 

 
鈴木 マンガ家も専業はいなくなって、本業の合間に描くスタイルが主流になる可能性が高いですよね。だとしたら、いちばん有利なのは公務員ですよね。余裕と時間があるから、いい作品が描けそう。

 

 

二つの仕事を持つ以上、時間を安定的に確保できることが重要になってきます。その意味で、公務員的な職(一部の激務食を除く)はけっこう有りな選択肢なんじゃないか、という指摘。他の職業でも、残業を絶対しないようにすれば、誰にでも可能であるということになるわけなので、やる気さえあれば誰でもOK!という門構えになるんですよね。

 

 

・作家の卵たちは兼業前提の働き方を想定したほうがいい


 
鈴木 ただし、これからデビューするマンガ家が専業でやっていくのは難しいので、最初から兼業志向でいったほうがいい。ネガティブに聞こえるかもしれないけど、それが時代の流れというものだし、さっきも言ったように専業か兼業かってことは、マンガそのものの良し悪しとは関係がないわけですからね。

 

 

何度も言いますが、小説やマンガで成功する可能性はほとんどありません。それなのに、専業でやりたい!という少し前の栄光話に縛られた思考をするのはナンセンスだと思います。ネットを活用して、作品を発表しつつ、よほど一本で食っていけるという自信がない限りは無理をする必要はないでしょう。ダブルワークをしながらでも、作品は生産できます。

 

 

おわりに


 

ワダマコ書店の運営は兼業スタイルをとっています。毎日更新するくらいなら、本業との間に弊害なんて全くありません。いつ記事を書いているの?なんて聞かれることもありますが、仕事が終わって帰宅してからの1時間で1本書いています。それ以外は読書とコーヒー。意外と簡単にできるんですよね。他にもいろいろと勉強したりすると、あっという間に時間は埋まってしまうので、そこの調整が難しいところではありますが、大した問題ではないでしょう。

というより、やりたいことが空いている時間にできちゃうんだから、やらない手はないんですよね。