ハピネス(1) (講談社コミックス)

ハピネス(1) (講談社コミックス)





  • 作者:押見 修造

  • 出版社:講談社

  • 発売日: 2015-07-09






 

 

押見修造氏がまたとんでもない作品を世に送り出してきた。『惡の華』によって一気に認知度を上げた氏の最新作が本作『ハピネス』である。思春期真っ只中の少年が吸血鬼となり、日常に変化をきたしていくというのが第1巻のあらすじだ。

 

少年は、はじめから吸血鬼だったわけではない。とある日の夜に、レンタルショップへの返却を忘れていた彼は、深夜に自転車で外出する。ふと夜空を見上げると、ビルの屋上に佇む女がいることに気づいた。次の瞬間、彼女はビルの縁から飛び降りた。しかし、彼女は重力にまかせた自然落下をしていたのではなく、こちらへ向かって空中へ飛び出したのであった。次の瞬間には、彼女が自分の上にまたがっており、吸血鬼特有の鋭利な牙をのぞかせていた。

 

彼は噛まれたが、トドメはさされなかった。この時点で、彼は人という種から逸脱した存在へとなった。しかし、彼は元来さえない草食系のいじめられっ子だった。肉体が変化しても、その実感を理性で無視しようとする。「僕はおかしくない」と。ただし、肉体が求める根源的な欲求には逆らえない。そう、身体が血を欲するようになるのである。

さて、ここからが押見修造氏の本領発揮だ。ヴァンパイアから血の欲求へ、そして思春期の学校というフィールドへといった条件から導き出されたのは、女子の生理現象である。吸血鬼となった彼がまず反応したのがそれだった。思春期ならではの性に対する好奇心を見事にマンガに載せている。普通、14歳前後では性に対する興味はひた隠しにするものである。押見修造氏はそういった部分をあえて描くのだ。これ以外にも、性に対する興味関心を絶妙に描いているのが、幾重にも存在する。細かい描写で陰湿な感じを演出したりと、憎い演出が多い。

 

ヴァンパイアと聞いて、アクションものを思い浮かべた方には残念かもしれないが、本作には爽快感はない。むしろ、ジメジメしている。しかし、こういった類の作品はマンガだからこそ成立するのだ。誰もが正面切って言うことができないようなことでも、絵に載せることはできる。誰もが抱えているけれども、誰にも言うことができないそれを代弁してくれるのが氏の作品なのである。