オリエント急行の殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

オリエント急行の殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

  • 作者:アガサ クリスティー,Agatha Christie
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2011-04-05




アガサ・クリスティーの名作『オリエント急行殺人事件』を遂に手にとった。タイトルは知っていても、内容は知らないという本読みとしては目も向けられない愚行をこれまで継続してきてしまったのだが、そんな恥ずかしさともこれでおさらばだ。ミステリの古典、その後の作品群に多大な影響を与えた名作に挑んだのである。


このミステリは今ではよくある閉鎖空間での殺人事件をメインとして進んでいく。オリエント急行に偶然乗り合わせた名探偵ポワロが、見事な名推理で犯人を明らかにしていく。客室を予約していたのは12名。普段は決して満室になることのないオリエント急行であったが、ポアロが乗ろうというときに限って満室になるという奇妙な展開がはじめからどこか引っ掛かりを残す。事態が急変しだすのは、まさかの豪雪によって列車の通行が遅れるところからだ。乗客のひとりが体中をメッタ刺しにされた状態で発見される。外部からの犯行は外の天候を見る限り不可能で、現場に残されたわずかな証拠と乗客の証言しか事件を推察する手がかりがない。そんな雲をつかむような状態でポアロは、疑問を一つずつ丁寧にまるで糸をほぐすかのように解いていく。犯行に隠された謎を明らかにしていった結果、最後にはどんでん返しが待っていて、この切り返しがアガサ・クリスティー氏のキレのよさを克明なものとしている。


少しネタバレしてしまえ。この事件の真の犯人はポアロにその詳細を暴かれたにも関わらず、架空の犯人を仕立てあげることとなる。つまり、無罪放免となるのだ。これは殺害された被害者の過去が大きな影響を与えていて、今回の事件の正義はいったいどこにあるのか、ということを著者は読者に投げかけている。著者からの回答は、先に上げたとおりなのだが、これまた賛否を呼びそうな結末だ。刊行から数十年を経た今でも議論になるような終末である。それがまた本作が名作たる所以なのだろう。


文庫版の解説には日本が誇るミステリ作家の有栖川有栖氏が筆をとった。氏曰く、本書を読むにあたっては早ければ早いほど良いとのことだ。しまった・・・ここに辿り着くまでにおよそ2000冊以上を読破してしまった。なんという不覚。しかしながら、あっという間に読み終わってしまった軽快さの記憶があることを考えれば、本好きの人だって絶対楽しい作品であることに間違いはない。早いに越したことはないが、遅すぎることもないのである。